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後ろ向きのススメ 2003/09/23
「ぅぅうう、こんな無意味な仕事なんか、ぅんもう、やってらんない!」地鳴りのような怒声とともに、私の設計事務所『survival design』は、仕方なく産まれた。

よく「独立して、自分の設計事務所を持つのが夢です」という人がいる。
先に言ってしまうが、そういう人は独立できない。
「夢」だと思っている時点で、最初から大会には参加していないのである。寝言なのだ。
独立なんて好んでするようなものではなく、追い込まれるようにして行き着いてしまう、ホームレスみたいなものだ。
独立は恐ろしい。
「理想を実現するため」なんて、ポジティヴなエネルギーでは、すぐにつぶされる。
独立は、『ボク個人』と言う剥き出しの生身が、『社会』と言う武装した怪物集団を相手にしていかなければいけない、恐ろしい行為なのだ。
「ぅうううん、もう!とにかくイヤ!」この非常にネガティヴなエネルギーにこそ、実は爆発的、かつ持続的なエネルギーがある。

泥棒と警官の追いかけっこを想像してもらうとわかりやすい。
「捕まえたい」VS「捕まりたくない」の戦い。
善意で追いかける警官は、走ったり「待てぇ!」と言ってみたり、無線で応援要請したりしているうち、いつしか疲れちゃうけど、
逃げる泥棒にすべきことはひとつ。
捕まりさえしなけりゃ何だっていい。
そう、死ぬ気で走ってるから底力がある。
だから警官は結局追いつけない。
泥棒さん優勝ぉ〜パチパチ。

『・・・したい』は『・・・・たくない』にはかなわない。
だから、もしあなたが泥棒なら『逃げのびたい』と思ってはいけない。その時点で捕まる。
逆に警官は、こういう時は『逃げられたくない』と思えばいい。

迷っているなら独立なんてしない方がいい。
腹の底でグツグツ煮えたぎる真っ黒なエネルギーが、我慢の限界を超えて大噴火を起こすまで、パーな上司に監理され、生ゴミみたいな社会に利用され、耐えて耐えて、待たなければいけない。
そして、この真っ黒なエネルギーは、一度大噴火を起こすと、止めどもなく湧き出つづける。(千と千尋の神隠しの、カオナシが飲み込んだものを吐き出すシーン、覚えてます?ちょうどあんな感じ)
この、誰にも止められない、迷惑なエネルギーこそが、独立後の推進力となる、『ネガティヴエネルギー』なのだ。
「コレがしたい、アレになりたい、理想・希望・夢」。ポジティヴなエネルギーは、一見正しいのだが、ヤワでいけない。打たれ弱いエネルギーは長続きしない。
「コレはいやだ、アイツも許せん、批判・反骨・憎しみ」によってエネルギーは、もんじゅ並に増幅される。

さて、ここまで他者への怒りをメインに書いてしまったが、自分への怒りも同じである。
他者の短所を漁り、またそれ以上に、自分の短所を漁るのが、上手なストレスの貯め方である。
「ぅうう、俺は何でこんなことが出来ないんだ!」またグッとストレス腹にを貯め込む。

二年前、独立にあたって、事務名を『survival design』(サバイバル・デザイン)と名付けた。
「人間にとってのサバイバルって、『ごはんを食べて、明日また働く。死んではいないから、じゃぁ生きているのかな』じゃお粗末だ。
『ウキウキ、ワクワク、しょぼん…、キーッ!、ヤッホー』って心までしっかり充実していること、それが人間としてイキテルってことじゃないの?」という想いで命名した。
しかし、独立しても、仕事は来なかった。まったく。
「来ぅるわっけないじゃん♪」とベテランの建築家の方々は嬉しそうに笑う。あの人たちにも身に覚えがある事なのだ。
一年経ち二年経ち、もうダメか…という頃、やっと依頼・問い合わせがチョロチョロだが来はじめた。
米を食って紙でケツを拭き、家賃を払って、布団で眠る。たったそれだけのことが、実はものすごく大変だった。
人間として生きる以前に、動物として、死なないで、命を維持していく、たったそれだけのことが、こんなにも大変なのだと、まず自分のサバイバルを痛感させられた。
雇われの身では、それは分からなかった。
苦しい時期、諸先輩方からもたくさん助けていただいた。し、今も、いただいている。し、今もじつは苦しい。
「そんなに食えないなら、ウチの図面描きでもやるか?」「共同設計しようよ」「いいこと教えてあげよう」
ある方への年賀状に「お世話になっています…」と書いたら、返事には、ひとこと『お世話してます』と書いてあった。
はい、お世話になりっぱなしです…。返す言葉も無い。

さて、この若造、二十年後にはいったいどうしているのだろう?。
ここまで、言い切り形で書いてきてしまったが、本当にそうなのか、確かなことはわからない。
わからなくても、僕は、今は、そう思っている。
少なくとも、「独立はねキミ、夢と愛だよ」とか言うジジイだけにはなりたくない!
こうしてまた、後ろ向きのエネルギーをひとつ、グッと腹に蓄えるのである。
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