□index□   ■column■


セピア亭 という洋食屋さん 2003/06/20
ポークカツレツ、食べたことあります?

「トンカツ」じゃ無いんですよ。
ぽぉーく、ぽぉーく。
そして「カツ!」と言い切らない、語尾のちょっと気取った感じ。
かっつ、れつぅ。
この「レツ」が付くだけで、とたんに洋食なイメージがしてくるでしょ。
「最後まで真心こもってますよぉ」ってのが、カツレツの「レツ」には含まれているんです。きっと。
で、これがフレンチでもイタリアンでもなくて、「洋食」なんですよ。
「日本じゃないもの全部」ってそのくくりが、アバウトでしょ。
ちょっと古臭い、白人コンプレックスまる出しの、漠然とした憧れをがこもった、でもこの「大体でいい」っていうおおらかな言い回し。
味わい深いでしょ。
「洋食屋さん」なんですよ。

20代前半のころ、昼間は設計活動して、夜中はファミレスでバイトして、8万円の生活費で暮らしていた超貧乏時代がありました。
当然、外食なんて贅沢なことは、まったく出来なくて、ラーメン屋さんにさえも入れないほどでした。

 ある時プロジェクトがひと段落して、どうしても自分なりに、ささやかでもお祝いをしたくなって、
「家賃払えなくなってもいいや」と思い切って入ったのが、五日市街道沿いの洋食屋さんでした。
かなりの交通量の道に面しているのにもかかわらず、まったく目立たない店構えで、
「まぁこれくらいで洋食屋ってわかるでしょ」というアバウトさが、レストランとは違う、独特のユルーいオーラを放っていました。
こげ茶色の店内、黄色い白熱灯の明かり、ノッポのぼうしのコックさんが一人、首元にはちょっとおしゃれなネッカチーフ。
うーん、まさしく絵に描いたような洋食屋さん。まるでシティーボーイズのコントのようです。
 その時の僕は、肉体的にも精神的にもボロボロで、雑巾みたいになっていました。
腹が減っているなんてのは、とっくの昔に通り越していて、「味が濃くてガツンとくるのを持ってきてください」と注文したいところだったのですが、
なぜか「ぽぉーく、かつれつ」の気の抜けたメニューに目が止まってしまったのです。
今思えば、癒されたかったのかもしれません。

 そして、この時生まれて初めて食べた、ポークカツレツのうまかったこと!!
今でもはっきり覚えていますが、一口目を口に入れた瞬間、あまりにうまくて、笑いがこみ上げてきました。
もうなんだか可笑しくて可笑しくて仕方が無くて、下向いて、「クックックックックッ!」って。
ずーっと笑いながら食べていました。
たぶんあの時は、アタマのネジが完全に外れちゃったんでしょうね。
後にも先にも、食い物であんなに感動したことはありませんしでした。
「旨いもの作れる人って、ノーベル賞の人なんかよりも、ズーッとエライぞ!」とその時心の底から思っていました。

その後も貧乏はしばらく続いたので、再び店を訪れるまでには、それからまだ1年くらいかかりました。
で、再び、今度はウチのカミさんも連れて行ったのですが、
こんどは二人して下向いて、「クックックックックッ!」。
やっぱり旨いんですよ。
べつに、想い出が旨く感じさせているわけじゃなくて、いつ食べても、今食べてもホントにうまい!
きっと世の中に旨いものなんて、僕が知らないだけで、きっと、もっともっとあるとは思う。
でもね、1000円でおつりがくるような値段でね、こんなに旨いと思わせてくれる店って、そうザラには無いですよ。
ファミレスで食べたって1000円越しちゃうでしょ。
で、感動なんか絶対ありえない。

その後、だんだんと人並みの生活が出来るようになって、ちょくちょく通えるようになり、メニューにあるもの片っ端から食べてみました。
旨いです。何食っても。ホントに。

小金井公園の近く、五日市街道沿いです。
近くを通ることがあったら、ぜひ寄ってみてください。
ホントはもうちょっとたくさんの人が、自然にフラッと寄ってみたくなるような、お店の外観だといいと思うんですけどね。
インテリアも、もうちょっと落ち着けて、さりげなくおしゃれだといいんですけどね。
だから「改装する時は僕に依頼してくださいね」って言ってあります。
おいしい店だからね、それにふさわしい空間を作ってあげたいんですよ。
いつになることかわかりませんが、まぁ気長にね、待ってますよ。

*追記 たいへん残念ですがセピア亭は2003年7月に閉店してしまいました。
最後の日にはたくさんの常連さんが詰めかけ、
閉店時間を待たずに食材が尽きてしまう盛況ぶりでした。
またいつか、復活してくれることを期待しています。

back